【シリーズ】構造物の維持管理に役立つ知識〈全8回〉
寄 稿: 松村 英樹(一般社団法人 日本構造物診断技術協会 代表理事/技術アドバイザー室長)
#08|構造物診断についての豆知識(その3)
今回は、甚大な損傷が発生した道路橋の耐荷性能を数値解析により評価した一例を紹介する。
損傷した道路橋の耐荷性能評価
道路橋を構成する部材に大きな変形や破断が発生し、通行車両の安全が脅かされている時、道路橋の維持管理に関わっている技術者には以下のような項目に回答が求められるが、回答は客観的データに基づくものでなければならない。
- 損傷による耐荷性能の低下はどの程度か?
- 供用しても安全面での問題はないか?
- 通行止めは必要ないか?
- 荷重制限を設ければ共用可能か?
- どの部材をどの程度補強すれば、耐荷性能はどの程度回復するか?
- 当面どのような応急措置が必要か?
一般的に既設橋の耐荷性能を診断する方法には載荷試験がある。荷重車を載荷し、発生する主桁のたわみやひずみを計測、構造解析等で求めた健全な状態での理論値と比較することにより、耐荷性能の低下状況を把握するものである。ただし、載荷試験では死荷重によるたわみやひずみは計測できないので、損傷が甚大で死荷重のたわみやひずみが増加している場合は、正確に耐荷性能を評価することはできない。また甚大な損傷がある状況での載荷試験の実施は安全面から難しい。
また、橋梁全体を起振機などで振動させ振動特性を把握し解析で求めた健全な状態の振動特性と比較することにより、橋梁全体の健全度を把握する方法がある。この方法では振動特性の変化と耐荷性能の低下との関連付けが難しいことから耐荷性能を評価する手法にはあまり用いられていない。ただし、損傷の進展をモニタリングするには適している。
したがって、いずれの方法からも上記の回答の根拠となるデータを得ることは難しい。
下路鋼トラスを対象とした解析の一例
構造体を構成する部材が大きく変形したり、破断したりすると、損傷した部材が負担していた荷重を支持できなくなり、健全な部材がその分を負担することで構造を維持しようとする。損傷が進行し負担する荷重が増加し、その部材も負担できなくなると、他の健全な部材が負担することになる。このように荷重を負担する部材がつぎつぎに移動していくと、構造全体が不安定となり崩壊につながる場合もある。
このような甚大な損傷が発生している状況において、損傷部材やその周辺部材の耐荷性能を評価する解析はリダンダンシー解析1)と言われており、ここに示すのはその解析例の一つである。
解析したのは【図-1】に示す下路鋼トラスであり、ここでは上弦材、下弦材、垂直材、斜材と横桁、縦桁で構成する3次元骨組構造にモデル化し、部材が損傷または破断すると他部材の断面力がどのように変化するかを影響線解析により求めることにした。損傷程度は、曲げ剛性の低下としてモデル化した。

解析では損傷した部材を下弦材と横桁、縦桁とし、それぞれの剛性低下率によって損傷程度を表すこととした。
解析ケースは以下の2ケースとした。
〈CASE-1〉
下弦材の剛性低下率:50%、
横桁と縦桁の剛性低下率:80%

〈CASE-2〉
下弦材の剛性低下率:100%(完全破断)、
横桁と縦桁の剛性低下率:50%

【図-2】にCASE-1、【図-3】にCASE-2で剛性低下させた部材位置を示した。また、損傷後に緊急車両が通行することを想定して活荷重としてT-14を載荷することとした。
また、各材料の特性値や限界状態3の制限値の算定にあたっての各係数は道路橋示方書に準拠している。
各ケースの解析結果を【表-1】に示す。各ケースにおける部材の断面力の健全時からの変化は以下の通りである。


- 斜材について
下弦材⓪につながる斜材⑧はCASE-1では引張力が健全時から32%低下し、CASE-2では圧縮部材になる。反対側の斜材⑨では引張力がCASE-1では1.5倍、CASE-2では2.6倍に増加している。
以上をまとめると、下弦材が損傷すると、それに隣接している下弦材が負担している断面力は低減され、反対側の下弦材の断面力が増加する。これには横桁の損傷により横方向の荷重分配効果が低下していることも影響している。また、上弦材、垂直材、斜材の断面力には大幅に断面力が増加している部材もあり、引張部材から圧縮部材になるものがある。
また、いずれのケースでも発生応力度は限界状態3の制限値を超過していない。下弦材が破断しているCASE-2の発生応力度も限界状態3の制限値を超過していないことから、落橋の可能性は低いと考えられる。CASE-1の損傷程度であれば、T-14荷重程度の緊急車両の走行は可能と判断できる。
道路橋に甚大な損傷が発生した事態に直面した時、上記のような判断の根拠には、この解析例のような損傷状況をモデル化した解析結果が必要である。ここで示したのは一例であり、解析方法には様々な手法があるが、損傷状況のモデル化の精度を上げることが大事であり、損傷程度を現地で詳細に調べ、そのデータに基づき的確なモデルにより解析する必要がある。それにより、上記の回答の根拠となる的確なデータになると考える。
このうち、自由塩化物イオンは鉄筋の不動態被膜を破壊し鋼材の腐食に関与するが、フリーデル氏塩に固定された塩化物イオンは不働態被膜を破壊することはなく腐食には関与しない。しかし、空気中の二酸化炭素がコンクリート中に進入しコンクリートの中性化が進行すると、二酸化炭素がフリーデル氏塩と反応し、炭酸カルシウム(CaCO3)と塩化カルシウム(CaCl2)を生成する。これによりフリーデル氏塩に固定されていた塩化物イオンは解離し自由塩化物イオンとなる。
この結果、中性化していない場合と比較すると、多くの自由塩化物イオンが拡散することとなり、鋼材の腐食進行はより加速される。
《次回は2026年12月にUP予定です》
【参考文献】
- リダンダンシー評価ガイドライン(案);土木学会鋼構造委員会, 2014.6

